第1回 会計とは。会計士とは。
「複式簿記は、人知の生んだ最も立派な発明である。」
かの有名な詩人ゲーテの言葉です。
さらにゲーテはこう続けています。
「心ある一家の長は誰しも自分の経済に複式簿記を用いねばならぬ。」
複式簿記、ひいては会計に対しこのような賛辞を述べているのはもちろんゲーテだけではありません。
「会計こそは各企業に対し、過去に対する誤りなき判定者であり、現在に対する欠くべからざる指導者であり、将来に対する信ずべき助言者である。」(J.F.シェアー )
「企業を他の有機体、例えば、人体と比較すると、企業会計は、記憶や神経の役割をいくらか果している。人間の神経は、人体のどこかに刺激が起こったかということを知らせる。傷害、欠乏、故障は、神経を通じて防衛機能を働かせる。同じように、企業会計、特に、内部会計は、他の粗雑な方法によっては明らかにできない経営上の欠陥、傷害及び処理上の失敗について経営首脳部に対して報告する役割を果している。」(E.シュマーレンバッハ )
以上の両者は企業における会計の重要性を説いています。このような言葉を見ると、企業経営にとって会計は不可欠なものであるといえるでしょう。
人知の生んだ最も立派な発明、そして現代における経済活動の基礎を成す企業経営にとって不可欠なもの、それが会計です。
そしてその会計を司る者、それが会計士です。
近年、エンロン事件や西武鉄道事件など、会計不祥事が相次ぎ、会計情報の信頼性の低下が叫ばれています。そのような不祥事の発生を受け、後追い的に新たな法改正、それに伴う制度改正が頻繁に行われ、その中で会計士に対する責任は確実に重くなってきているのが現状です。
これからの時代において会計士は従来よりも更に大きな責任を負い、大きなリスクと対峙していかなければならない職業になることでしょう。
しかし、上述したゲーテの言葉を用いると、会計士とは人知の生んだ最も立派な発明を司る者です。そのような者に対する責任は重くならざるを得ないはずであり、それだけ名誉ある職業であると考えるべきではないでしょうか。
「会計とは、情報利用者が、事情に精通した上で、判断や意思決定を行うことができるように、経済的な情報を識別し、測定し、伝達するプロセスである。」
これは、アメリカ会計学会が述べる会計の定義であり、これが一般的な会計に対する認識でしょう。
また、会計士とは証券取引法による企業開示制度の一端を担う監査を行う者と捉えるのが現代においては一般的でしょう。
しかし、これらの会計学や監査論で学ぶ定義からいったん離れ、会計の草創期に生きたゲーテをはじめとする過去の偉人達がいうように会計を捉えた場合、会計士に対するイメージや見方が変わるのではないでしょうか。
会計士に対する風当たりが強くなりつつある今日、会計の持つ歴史を紐解き過去の偉人の言葉に耳を傾けてみると気分の転換が図れるのではないだろうか、そんなことをふと思い筆を執りました。
(文責:藤田耕司)