第22回 実査の現場より
先日は貸借対照表日の直後ということで、それぞれ違う会社の実査に行って来ました。
(念のためですが、あくまで期末監査であって、四半期レビューとは関係ありません)
実査は皆さん御存知の通り現物を自ら確かめるという手続です。しかし、ただ単にお金や株券を数えて終わりかとも限りません。
そこで、幹事の実査体験を簡単にご紹介したいと思います。
☆実査1日目
1日目の会社はそれほど大きい会社ではなく、手提げ金庫の小口現金と預金通帳だけで午前中に終わりました。
とはいっても、必ずしも楽な作業とは限りません。保有する現金自体は会社全体の重要性に照らして、それほど多額ではないことも間々あります。たとえば、資本金10億円の会社に現金が50万円しかないことも、決して珍しくはありません。
しかしそのような会社にとって多額ではなくても、僕にとって大きいか少ないかは別です。何十枚もの束になっている1万円札を数えるのは、やはりドキドキします。
(これが全部自分の物だったら・・・と妄想してウキウキする事もなくはないですが(笑))
そして何より、たとえ1円でも失くしたりしたら、クライアントとの信頼関係に関わる大問題になりかねないのも事実ですから。
ところで実査と併せて、社印の捺された銀行確認状も受け取ったのですが、当のクライアントには郵便貯金の口座もあります。しかし完全民営化された現在でも、ゆうちょ銀行は普通の銀行のように確認状で残高について回答を送ってくれません。
郵便貯金は銀行と違い支店ごとに口座を管理しているのではなく、管轄する地方ごとの「貯金事務センター」で管理しているからです。かといって、貯金事務センターで管理している情報もあまりに膨大なため、こちらへ直接確認状を送っても対応には限界があるわけで・・・
そんなわけで採った方法は、会社の人と最寄の郵便局まで同行して残高証明を直接入手するというものでした。会社には業務で使用する口座と配当の支払いに用いる口座があり、前者はその場で残高証明を出してもらえるのですが、後者は貯金事務センターでないと照会できませんでした。なので、後者の口座については後日法人宛に郵送してもらうよう手配してもらいました。
しかし一番の悩みは、郵便局が混雑することに加え、どうしても残高証明書の発行に時間がかかることです。現金・通帳の実査後に行った昨年の中間監査では受付までで30分は待ったので、その反省を活かして今回は真っ先に郵便局に向かったのですが、それでも窓口でクライアントさんが申請してから40分近くはかかったでしょうか。順番が来るまで、クライアントさんと雑談して時間をつぶしました。
窓口へ即座に申請できた時は「やった!」と思いましたが、現実は甘くはなかったようです。
☆実査2日目
この日実査した会社では、現金に加え株券・ゴルフ会員権がメインでした。1日目の会社に比べると規模はずっと大きく、保有する有価証券も決して小額ではありません。
今回はクライアントと今後のスケジュールに関する話が一段落すると、会社の人と一緒に貸し金庫のある銀行へ向かいました。このように、実査対象の資産が会社内部に保管されているとは限らないので、貸金庫など社外で手続きを行うこともあります。
さて、今回の銀行にあったのは、FX貸金庫なる貸金庫。今までの貸金庫は、棚のように並んだ金庫から自分のものを引っ張り出して個室に持っていくスタイルでしたが、この金庫は個室ごとに取り出し口が設置されており、専用のカードを入れてパスワードを入力すると、自動的に自分の金庫が取り出し口まで運ばれてくるという仕組みです。
しかも、個室のドアは自動式なのですが、金庫を開けたままドアを開けるとアラームが鳴るようになっており、よりセキュリティが高まったというワケなのです。
それにしても、僕たちは部屋を動かないのに、会社の人が入れ替わり立ち替わり部屋に入って、同じ取出し口から管轄の株券やゴルフ会員証を取り出すのも、心なしか奇妙です(笑)。
ところで来年より、上場企業を皮切りに株式のペーパーレス化がスタートします。実際に今回の実査でも、一
部の銘柄については株券そのものが廃止され、現物の代わりに株券不発行証明をチェックしたものもありました。
我々としては実査の手間が省けるのは歓迎すべきことではあるのですが、資産としての重みが感じられなくなるのではないかと思うと、少し複雑な気持ちです。
実査も昼過ぎに無事終了し、事務所に向かい自転車を走らせていると、平将門の首塚の標識がありました。今回のクライアントは丸の内だったのですが、首塚は大手町。周囲はオフィスビルに囲まれており、「オフィス街にこんな物があるなんてー!!」と思わず感激。
関東に独立国建国を目指し、後世でも弱者の味方として庶民の人気を集めた平将門。 そんな将門は今も、東京のオフィス街を静かに守り続けているのでしょうか。
自転車を降り首塚に手を合わせながら、弱きを助け強きを挫いたヒーローに思いを馳せました。
(文責 岡田章宏)