日本公認会計士協会 準会員会

活動報告(全国)

【国際委員会】2023年度海外視察 in Singapore

1.はじめに

11月28日から12月2日の期間で、準会員会幹事4人が海外視察のためシンガポールに渡航した。本記事では、現地で撮影された多くの写真とともに海外視察の様子をレポートする。

今回の海外視察はコロナ渦の影響もあり4年ぶりの実施となった。このため、前回実施時のナレッジがほとんど残存していなかったこともあり、限られた予算のなかで出来る限り意義のある海外視察にするための前準備は過酷を極めた。このような状況下で視察メンバーや日本公認会計士協会(以下「JICPA」)の常務理事の皆様などとのディスカッションを経て、今回の海外視察の目的を以下の3つに定めた。

①主に女性会計士の進出が進んでいるアジア(今回はシンガポール)での状況の把握を行う。具体的にはシンガポール勅許会計士協会(ISCA:Institute of Singapore Chartered Accountants)(以下「ISCA」)を訪問して先方のDE&I担当とのディスカッションを行い、どのようにシンガポールでは女性の会計士業界への進出が行われているのか、何が日本との違いなのかを学ぶ。これらの知見をもとに、帰国後はJICPAのDE&I、女性会計士活躍促進協議会との連携を行い、日本における女性会計士の増加や活躍に資する活動に結び付けていく。

②ISCA側から招待を受けたISCAのConferenceに参加し、当該Conferenceにてディスカッションされる生成AIの業界への影響など最先端の情報を学ぶ。加えて、現地でのネットワーキングランチへの参加なども通じてISCAとの交流を深め、今後のJICPAとISCAとの交流に資するようにする。

③現地で活躍する日本人公認会計士への訪問を行い、グローバルで活躍する公認会計士の可能性を理解し、準会員会メンバーのような若手公認会計士への期待を把握することで帰国後の実務や勉強に活かす。

上記のような目標を達成するべく、準会員会幹事の4名がシンガポールに渡航することとなった。

  1. Day0 ~トラブル続きの入国~

本海外視察は搭乗予定であった飛行機のエンジントラブルにより出発時刻が約12時間遅れるという大波乱とともにスタートした。成田空港での缶詰状態を何とか乗り切り、チャンギ国際空港に到着したのは真夜中の3時過ぎ。じっとり汗ばむホテルまでの道のりも静まり返り、東南アジアの騒がしいイメージとは打って変わって不気味なほどであった。ようやく休めると思ったのも束の間、ここでもちょっとしたハプニングが起きた。地下鉄などの公共交通機関が終了していたため、空港からホテルまではタクシーで向かったのだが、現地のキャッシュを持っていなかったにもかかわらず、支払方法をキャッシュにしてタクシーに乗ってしまった。次の客を待たせているタクシー運転手にひたすら謝って少し待ってもらい、親切なホテルの受付の人に立て替えてもらうことで何とか支払うことが出来た。入国早々、とてもヒヤヒヤした出来事であり、待たせた運転手の方には大変申し訳ないことをしてしまった。一方、立て替えてくださったホテルの受付の方はとても我々のことを気にかけてくださり、待たせた運転手の方もにこやかに「心配するな、シンガポールを楽しめよ!」と声を掛けてくださり、シンガポールの人々の優しさに直に触れることが出来た体験でもあった(大いに反省しているが…)。

成田空港で疲弊する橋本氏(右図)

3.Day1 ~華やかすぎるConferenceと不足する英語力~

次の日、前述の様々なトラブルを経て寝不足で向かったのはISCA主催のConferenceである。このConferenceはかの有名なマリーナベイサンズにて開催された。1,000人を超える人々が参加する大規模かつ煌びやかなイベントであり、これだけでも東南アジアのハブたるシンガポールの活気あふれる姿が見て取れるようであった。

ConferenceはISCAのトップと財務大臣による挨拶から幕を開け、4つの基調講演・パネルディスカッションを経て、ランチ後は各種セミナーに参加するというスケジュールであった。冒頭の挨拶から財務大臣が登場したことに新鮮な驚きを覚えるとともに、シンガポールにおけるISCAのプレゼンスの高さを象徴しているようにも感じた。冒頭の4つの基調講演・パネルディスカッションで非常に印象的だったのは、4コンテンツのうち3つがサステナビリティ関連で1つが生成AI関連と、非常に偏った構成となっていたことだ。昨今、日本でもこの2つのトピックがよく取り沙汰されてはいるものの、シンガポールにおける熱量の高さは圧倒的であり、もっとキャッチアップしていかなければならないのだなと強く感じた。その後のセミナーでは、プレゼンターやパネラーの方々のこちらに情報を伝えようとする姿勢がすさまじく、時には早口かつシングリッシュ連発で聞き取りづらいところもあり、英語力不足を実感した場面も多々あった。ConferenceにはBIG4をはじめとする監査法人だけではなくSAPなどの会計に関連する企業が数多く出展しており、各企業のブースを回るだけでも大きな刺激になった。また、今回の視察メンバーは全員BIG4所属であったため、各人の所属する法人のブースに挨拶に伺い、現地で働く同僚との交流を深めることが出来た。イベントの終盤ではカクテルパーティーも開催され、ISCAのメンバーからも声をかけてもらうなど、様々な方と英語でコミュニケーションが取れたのもとても良い経験になった。

カンファレンスの様子(左)、ISCAの方に撮影していただいた写真(右)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. Day2 ~シンガポールで活躍する日本人会計士との素晴らしい出会い~

大盛況のConferenceから一夜、2日目はシンガポールで活躍する日本人公認会計士3組へのインタビューを実施した。1人目はBIG4でのマネージャー経験を経て、シンガポールで独立された壺谷啓一郎さんである。壺谷さんはもともと海外で働くことについて強い興味があったわけではなかったが、クライアントが海外の会社を買収して子会社化したことをきっかけに、海外で働く道を選ばれたとのことであった。キャリアを歩んでいく中で自問自答を繰り返したのちに、「生きている時間を充実させたい」との信念に突き当たり、現在に至るまで様々な活動に邁進されている。壺谷さんは今やりたいこととして、他者のチャレンジを応援するとともにやりがいを持って働ける職場の構築をじっくり進めていきたいとのことであった。また、壺谷さんは若手公認会計士に対して「監査をしっかりやって欲しい」と語ってくださった。監査はリスク評価したのちに、リスクの高い分野に対して目的・手続・結論を形成していくが、これらを遂行するスキルは普遍的に必要とされるスキルであるからだと壺谷さんは言う。加えて、昨今の標準化や公認会計士試験に合格していないアシスタント・単純作業センターの活用の流れを壺谷さんはポジティブなチャンスと捉えてほしいと話してくださった。組織を形成していくうえで脱属人化を進めるスキルはこれからますます重要になっていくことから、業界全体が上記の流れを促進している現状を活かさない手は無いと熱く語ってくださった。視察メンバーからの質問が続出して当初予定していた時間を大きくオーバーしてのインタビューとなったが、様々なキャリアパスがあるからこそ悩みを抱える若手公認会計士も多いなかで、今我々が従事している監査という仕事を少し誇らしく思えるようなインタビューであった。

Grant Thorntonのオフィスで撮影した写真(右)、(左から橋本、渡邉さん、佐川、壺谷さん、松田、井上)

Grant Thorntonのオフィスで撮影した写真(下)

 

 

 

 

 

 

 

 

 次にお会いしたのは、株式会社フェニックス・アカウンティング・グループの伊藤さん・中島さん・山本さん・福島さんである。我々がお邪魔したPhoenix Accounting Singapore Pte Ltdでは、シンガポールを拠点とする会計事務所であり、日系企業の海外進出支援・国際税務の相談対応・現地の関連企業の紹介や現地情勢の情報提供などの様々なサービスを展開している。伊藤さんは、公認会計士はバックオフィス業務の全てに精通する必要があると語ってくださった。公認会計士はフロント業務を支えるプロフェッショナルとして大きな可能性を秘めており、活躍の場を広げるためにもテクニカル面のシャープさを持ちつつコミュニケーション能力を高めていくことが大切であることが再認識出来た。上記のテクニカル面のシャープさとコミュニケーション能力に加えてチャレンジ精神と商売好きな人材であればどこでも活躍できるという。視察メンバーは若手公認会計士で構成されていたことから、20,30代で何事かに真剣に向き合った経験こそが何よりの糧になるということで、やりたいことを死ぬ気でやっていく真剣さを持ち続けることが肝要だと教えてくださった。また、伊藤さんは海外で成功するのは2回目以降であることが多いことから、若手公認会計士に対して「早く海外に飛び出してほしい」と語ってくださるとともに、日本の常識を押し付けることなく海外の価値観にしっかりアジャストしつつも、いかにJapanクオリティを維持できるかが大切とも語ってくださり、日本人としての誇りを持ちながら海外で活躍したいなと素直に感じた。

(後方左から山本さん、橋本、佐川、井上、手前左から福島さん、松田、伊藤さん)

 

最後にお会いしたのは、Deloitte & Touche LLP (Singapore)の野田さん・古谷さん・家田さんである。お会いした3人はJSGという日系企業にサービスを提供するグループに所属されている。野田さん・家田さんは駐在中であるが古谷さんはローカル採用でDeloitte & Touche LLP (Singapore)に所属されている。野田さんによれば、最近では海外派遣を志願する若手が減少傾向だそうで、日本人の持つ価値観を大切にしながらも様々な価値観を持つ人たちと仕事をすることでそのギャップを楽しんでほしいと語ってくださった。デロイト内部では多種多様なナレッジを持つメンバーが世界各国に所属しており、そのような魅力的なメンバーとの出会いがグローバルに働く大きな楽しみだという。古谷さんと家田さんは全く異なるキャリアを歩まれてきているが、口をそろえて「まずはやってみるという精神を忘れないでほしい」と話してくださった。お三方とも海外で仕事をしていることを前向きに話してくださるのが非常に印象的であった。

Deloitte & Touche LLP (Singapore)の方々と撮影した写真、(左から、野田さん、佐川、井上、橋本、松田、古谷さん)

 

 

 

 

 

 

 

 この日の夜、インタビューに答えてくださった皆様とディナーをご一緒する機会に恵まれた。昼間のフォーマルな雰囲気とは打って変わってワイワイと楽しい時間を過ごさせていただいた。長時間にわたりインタビューにご協力いただいた皆様にこの場をお借りして御礼を申し上げる。

1次会、2次会、2次会でいただいたカクテル

  1. Day3 ~ISCAって凄い~

3日目はISCAを訪問した。ISCAはシンガポールのビジネス街であるセントラルビジネス地区(Central Business District)のど真ん中に位置しており、またしてもISCAのプレゼンスの高さを物語っているようであった。セントラルビジネス地区はまさに摩天楼というべき超高層ビルが立ち並ぶエリアであり、BIG4のシンガポールオフィスもすべてこの地区に集結している。日本の都会とは一味違う密集感を味わうことが出来るので、ぜひ立ち寄ってみて欲しい。ISCAのビルは6階建てであり1階には会員が自由に使えるラウンジが備え付けられており、訪問した日も多くの会員の方々で賑わっていた。そのラウンジではネットワーキングイベントなども開催されているとのことであり、日本でもこのような場所があれば良いなと感じた。また、2階には無料で使えるコーヒーメーカーやミーティングルーム、QRコードを読み取ることで電子書籍を読めるスペースなどが設けられており、とても綺麗で使いやすい印象を受けた。ディスカッション前にはISCAの職員の方にオフィスツアーをしていただき、執務スペースなどの普段は入れない場所まで案内していただいた。

 

その後、ISCAメンバーの皆様とディスカッションする機会を頂いた。今回の主な議題は、どうすれば日本の会計士の女性比率を高められるかという点であった。シンガポールの勅許会計士の女性比率が60%を超えていることからどのような背景があるのかについて大いに議論がなされた。非常に印象的だったのは、シンガポールの勅許会計士も日本と同様の悩みに直面しているということだ。男女(父親母親)を問わず、キャリアを形成する上での悩みは共通しており、具体的には、親になるということへの漠然とした不安・育児の時間の確保・ジェンダーバイアス・時間的制約が挙げられていた。つまり、上記のような根本的な要因は日本と同じ状況であるということだ。

一方、シンガポールでは、ベビーシッター/メイドの普及・親の父母(子にとっての祖父母)との同居・保育園に相当する機関の充実など日本とは明らかに違う環境が整えられており、このあたりが日本との大きな違いであることが理解できた。また、シンガポールでは物価の高さや国の成り立ちなどの様々な要因から共働きがスタンダードである点も事実である。また、ISCAでは勅許会計士という職業の普及のために、中高生をISCAオフィスに招いて勅許会計士の仕事を紹介するなどの取り組みもなされているとのことであった。本件は一朝一夕に解決する課題ではないが、シンガポールの様々な環境も考慮に入れながらも、日本でどのような施策として反映できるかを改めて考えていきたい。

集合写真(右)、左側がISCAメンバー、右側が日本メンバー(左)

 

6.おわりに

今回のシンガポールでの海外視察では本当に大きな刺激を受けることができた。Conferenceも日本人公認会計士インタビューもISCAでのディスカッションも全てが刺激的で、一瞬で時間が過ぎてしまったように感じた。また、Conferenceやディスカッションに限らず視察の全ての場面で英語力の無さを痛感したのもまた良い思い出である。このような素晴らしい視察の機会を与えてくださった関係者の皆様に感謝を申し上げるとともに、今回の視察で持ち帰った様々な知見を余すことなく準会員・会員の皆様に還元する所存である。

海外視察メンバー

橋本和哉、井上新之介、佐川竜也、松田和也

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