「会計士業界の変化と、これからの会計士に求められるもの」バイアウト・ファンド勤務(プライベートエクイティ投資事業)
講演者略歴介大学卒業後、日本と米国の監査法人にて、会計監査・内部統制に関する監査およびコンサルテーション・M&Aにかかわるデューデリジェンスなどを担当。その後、プライベートエクイティ投資を行うファンドにて、投資先の事業改善活動および新規投資案件の検討に従事。 職業紹介:法人以外の職業に就いている会計士の方々が、どのような仕事をしているか。PE(プライベート・エクイティ)投資は非公開株式への投資を意味し、ベンチャーキャピタルファンドやバイアウトファンド、ディストレストファンドなどが含まれます。わたしの勤務先はバイアウトファンドを事業としており、ある程度成熟した会社に投資をして、企業価値を高めることでリターンを得ています。 今の仕事で、会計士としての知識が、どのような形で役に立っているのか。今の会社は、「投資にかかわるすべて」を皆で遂行する必殺仕事人集団みたいなもので、投資案件の評価、投資実行から投資後の戦略策定・実行のマネジメントなど、業務でかかわる領域は多岐にわたります。ほとんどの人は、数年以上プロフェショナル・ファーム(戦略コンサルティング・投資銀行など)での経験がある前提で採用されており、私自身も会計士としての経験と専門性がなければそもそも採用されなかったと思っています。しかし、会計の専門性だけでできることは今やってる全体の20%くらいです。 私自身が会社で期待されていることは、財務・会計の専門性以外に、アメリカでの監査法人での勤務経験があって、海外の会社のマネジメント・投資に協力いただく海外のプロフェッショナルと同じ視線で話ができ、有効なコミュニケーションができる点が大きいと思っています。今までの経験から得た2つの軸である会計と英語、をフルにレバレッジして、PE投資の経験不足をカバーしながら頑張っている、のが現状です。PE投資は若干特殊な仕事ですが、監査法人を出て会計監査のフィールドを離れたら、何をやってもそういう要素、今まで経験していない部分を必死で伸ばす必要はでてくると思います。 転職してよかったと思うこと。毎日が新しい勉強であり、チャレンジであること。本当に優秀で、かなわないなあと思える人たちと毎日仕事ができていること、ですね。監査法人でも人に恵まれたし、そのまま働いてても楽しかったとは思いますが、自分の幅が広がっていく感じや、毎日新しいことにぶつかる感触を、30代前半の今感じているのは、非常にありがたいことだと思ってます。 監査法人でできること:(正会員でない)準会員が1年ないし2年は法人にとどまると考えている前提で、転職を見据えて監査法人で何をすべきか。①チェックリストに頼らない 監査手続き書はガイドであって、内容を充足させることは大事ですが、それが監査の全てだとは思わないでください。ロジックとして納得できること、直感的におかしくないこと、論理と感覚の両方をフルに働かせて監査を行ってください。監査調書は、みなさんが実施した監査の「説明責任」を果たすプレゼンテーションなので、真面目に作っていることで文章力もロジックの力も必ず身に付くはずです。これらの能力は、監査人として道を究めるとしても、社外に出るとしても、とても重要なことだと思います。 ②会計数値のバックグラウンドにある会社のビジネスを理解する 米国で監査のマネジャーをやっていたころ、1-2年目のスタッフに「この会社の売上規模はどれくらいか、赤字か黒字か」と聞くと答えられない子がいて、理由は「私は売上の監査はアサインされてないから」というんだけど、こういう意識じゃ絶対だめです。また、売上の監査を担当している子に「どの製品の粗利率が一番高い?」と聞いても答えられないことがあって、これもダメ。監査をするにも、何が儲かっているのか、売上規模がどのくらいか、会社のビジネスの基本構造を理解しなければ重要な見落としをする可能性があります。また、他の仕事に転職するとしたら、普通ビジネスで話されることは「儲かってなんぼ」なので、担当していた会社に関してビジネス面での知識を得ていないのは、もったいないと思います。 ③どんな状況でも自分にできることを考える、自分の「売り」をつくる 人余りで仕事がない、上が指導をしてくれない、という話を何人かの準会員から聞きました。その状況はみなさんのせいではありません。しかし、愚痴をいっていてもはじまらないので、ぜひ、その中で何をできるか考えてほしいと思います。 これからの会計士に求められるもの:会計士が大幅に増加している中、他の会計士と差別化する上で考えなければならないこと、求められる能力等①コミュニケーション力 コミュニケーションは口頭も文章も含みます。実は、数字だけでコミュニケーションできる、共通のルールへの理解がある同士でしか話さない、という会計士の仕事では、なかなかここが爆発的には伸びていかないんですね。会計のプロではない人向けにも、財務会計の話をわかりやすくつたえること、一見難しいことを簡単に解きほぐして説明すること、などができれば、他の会計士とは大きな差別化ができると思います。現在の職場では、戦略コンサルティングファームで、コミュニケーション力を徹底して鍛えられてきた人たちに日々鍛えられていますけど、自分もまだまだ下手だと思っています。 ②英語力 アメリカに数年間暮らし、仕事面で英語の不自由がなくなったことで自分の仕事は破格に面白くなりました。英語力はコミュニケーション力のうちの大事な一つだと思うのだけれど、みなさんの世代が20年後も面白い仕事をしているためには、英語はマストです。ネイティブ並みにぺらぺらである必要はないですが、読み書きのコミュニケーションに支障がないこと、最低限のビジネスができるレベルの正しい会話力は絶対必要です。日本というマーケットは巨大ではありますが、人口減少とともにシュリンクしていくのは明らかで、海外との取引を視野に入れないで会社を成長させることの方が難しい時代です。その成長ドライバーにかかわれないなんて、面白くないじゃないですか。そもそも、ファイナンス・アカウンティングというのは機能として海外とのやり取りが多いもので、できないとどんどん職域が減っていく危険があります。まずは仕事で積極的に使うこと、そして、自分にとって長続きできる方法で英語を身につけてみてください。 ③身も心も健康であること 気持ち的にも体力的にもタフで、ハッピーであること、これは全ての基本だと思います。自分を追い詰めないように、自分のケアをしてあげることもここに含まれます。日本の会計士の方には非常にまじめな方が多く、時に仕事のしすぎで体や心の健康を害してしまうのをみてきましたが、適切に休みを取ることも、疲れた時に無理をしすぎないことも、体力をキープすることを心がけることも、みなさんの仕事の一部だと思ってください。会社や周りにケアをしてもらえるとは思わない方がよくて、自分のことは自分が一番知っているはずなので、普段から体や心の声をよく聞いて、自分が一番いい状態で仕事ができるようにメンテナンスしてください。また、ジムに行く、趣味の時間を持つ、仕事と関係のない本を読む・・・そういうことで、ビジネスパーソンとしても引き出しの多い魅力的な人間になれると思います。 |