合格発表を待ちながら 第3回 公認会計士プラスアルファ
早いもので合格発表までもうひと月を切りました。
受験者の規模からみて、おそらく今年も1000名以上の方が論文式試験の合格者となることが予想されます。
これだけの同期合格者がいる中で自身の立ち位置を明確にする為には、単に実務経験を積んで補習所に通うだけではなく、強みを持って他と差別化することが重要となってきます。
差別化戦略を取らなくとも業務は十分にこなしていけるかとは思いますが、強みを持っていればより多くのことができるようになり、人生の少なくない部分を占める働き方の選択肢もそれに伴い広がっていくことでしょう。
そのため、今のうちからどういった強み、言い換えるとプラスアルファとしてどういった知識・能力を持っておきたいかということは考えておいて損はないかと思います。
ということで以下、公認会計士とのシナジーが考えられるプラスアルファを思いつくままに色々と挙げてみました。「このプラスアルファを持っておきたい」というものが見つかりましたら幸いです。
今回の文章は内容的にインタビュー「資格としての公認会計士」と重複する部分もいくらかありますので、両方お読みいただくことでよりイメージがしやすくなるかと思われますので、よろしければこちらもご覧ください。
・公認会計士+株
日本の監査制度はざっくり言うと健全な株式市場発展のために整備されたものであり、日本の公認会計士法は適切な監査を実施するため制定された法律となります。その意味で公認会計士と株との間には密接な関係があるといえます。
実際株式投資を行ってみると1株当たり情報などの「なぜこの数値情報を覚える必要があるのか」と受験時代思っていたような情報がいかに重要なものかが身に染みて分かるなど、資産運用以上の効果が得られます。
株式への興味から保有する株式が所属する業界の勉強に向かうなどの話も聞くことがあり、株式投資は各種の動機付けとして面白い方法と言えるでしょう。
もちろん株式の保有に際しては独立性の観点等からある程度制限はされてしまいますし、加えて所属先の規定に抵触しない程度に、ということになりますが。
・公認会計士+会計基準
会計士試験で主に勉強する対象は日本の会計基準ですが、その他の代表的な会計基準としてEUや中国などで用いられる国際会計基準(IFRS)、アメリカで用いられる米国会計基準(US-GAAP)といったものが存在しています。IFRSは日本でも採用する企業が増加していますし、US-GAAPは米国公認会計士(USCPA)の取得を目指す場合は必須となります。加えて収益認識基準のように、これらの基準に追随して日本基準が制定・更新されることも往々にしてあるため、最新の会計トレンドを知る上では知識として欠かせないものとなっています。
その他、日本国内でも金融系や学校・公会計などの分野では独自の会計基準が適用されており、これらの分野の財務諸表を閲覧する場合などには分野ごとの会計基準を知っておくことが求められます。
これらは受験勉強で学んできた基準と異なる部分も多々ありますが、基本的な考え方は共通しているため、これまでの土台があれば習得することは多少の努力によってどうにかなる範囲かと思います。
何より実際にそういった会計基準の適用対象となる企業等を監査することは十分に起こりうることですので。
・公認会計士+IT
現在の監査業務において、監査の対象となる会計主体から提供される会計データは基本的に電子データの形式となっており、会計データの検証にあたってはExcelやAccessなどといったソフトウエアを利用することとなります。
また、売上データの管理や上長による承認などの内部統制が業務用ソフトウエアによって運用されていることも多く、ITの利用状況によって集計エラーや数値改ざんといったリスクの評価、リスクの程度によって選定される監査手続と監査の効率性といったものが影響を受けてきます。
これらの要因から、ITに関する技能・知識が業務の効率性に大きく影響し、またITの知識があることで可能な業務の幅は増大します。
また、ベンチャー企業などに転職した場合、会計や統制の視点からITの整備に携わる場面が出てくることも十分考えられます。
会計数値を検証するという点でも、また会計主体の裏側を知るという点でも、ITに関する知識は非常に重要になってくるでしょう。
・公認会計士+専門性
会計士は職務等を通じてある業界について習熟していくことによって、「こういう業態であればこのような書類が作成されているはず」「この業態であればこういった取引が当然存在していると考えられる」といった勘、会計士風に言い換えると懐疑心が働いていくようになるらしく、実際に私は業務を通じてそのように懐疑心が発揮されている場面を何度となく目にしてきました。
そうした光景は横から見ているとさながら超能力のようで、こうした経験を重ねていることは差別化要因になるのだなあというように感じました。
こうしたことから、職務で携わる業界について少しでも深く知ろうとすることは、専門家としての自身の価値を高めることにつながっていくでしょう。
長じた結果業界専門のコンサルタントになる、なんてことも全然ない話ではありませんし。
・公認会計士+英語
あえてリファーラルなどの国際業務に積極的に携わるようなことがなくても、国際展開している企業に携わるにあたっては、子会社(時には会社自身)の財務諸表や会計等の内部データ、内部統制書類等は基本的に英語で作成されていると考えてよいです。そういった書類を読み解いたり、海外の関係者と連絡をとったりと英語が必要になる場面は頻出します。
また、IFRSなどの最新の情報に触れる際も英語力は必須となります。会計士業界のトレンドとして国際化というものがあるため、英語との向き合い方については今から考えておいてよいでしょう。
・公認会計士+身だしなみ
以前見たザ・コンサルタントという映画にアメリカの公認会計士が主役として出ていました(実は原題はThe Accountantでした)が、その主人公はシャツの胸ポケットに蛍光ペンを何本も差し込むというよく言えば実用性重視の外見をしていました。
つまりこれがアメリカでも会計士のステレオタイプとして考えられているということで、逆に考えると身だしなみを適切に整えることでクライアントからより好印象に捉えてもらえるといえるでしょう。
何より身だしなみに気を遣えることは、仕事以上にプライベートで生きてくることですし。
・公認会計士+税務
公認会計士は税理士登録も可能ということはよく知られているところですが、会計士試験や合格後に通うこととなる補習所の考査、修了考査まで含めても日本の税法を全てカバーした内容とはなっていません。
加えて税制は当然国によっても異なるため、会計士登録に必要な税務知識のみでは力不足となるような場面は色々と考えられます。
そのため、税務に関する知識を増やすことで、より活躍の場が広げられることでしょう。
・公認会計士+統計
統計学は論文式試験の選択科目となっていますが、その理由のひとつとして監査の手法であるサンプリングが統計理論によって裏付けられているため、というものがあります。
また、ここ数年話題のビッグデータ、AIといった分野についても統計学的手法が関連していることから、これからの監査業務は統計が支えていくことになるという可能性も十分にあります。
そのため、統計学的な手法を体得しておくことは監査業務のより深い理解につながり、また新たな領域へのキャッチアップや新たな業務の創造にも寄与していくことでしょう。
・公認会計士+リーダーシップ
主査やパートナーといった監査法人内の職務はもちろん、ベンチャー企業のCFOなどのような組織に所属する会計士が求められる役職は部下にあたる方々、時に上席の方々に適切な指示を出し、お願いをしながら目標達成のための舵取りをしていく立場となります。
そのため、チーム一丸となって職務を遂行していくためのリーダーシップが必要となる場面は頻出します。
適切なリーダーシップを発揮するにはどうすればいいか、今のうちから試行錯誤しておくこともそのうち役に立つでしょう。
・公認会計士+伝える力
仕事の現場では、上司から監査対象の会社について教わったり、必要な業務の内容を先輩から教わったりといった場面が、特に業務に慣れるまでの期間に多く発生します。
裏を返せば、ある程度業務に慣れた後は自分が相手に対して教える側に回ることになるわけです。
そこで上手に教えられるよう常に意識したり、上手な教え方について学び実践したりすることによってより効率よく業務を回すことができ、また伝えた相手からも好感を持って受け止められるようになることが期待できます。
他にもクライアントの担当者や役員等とのコミュニケーションの際にも、信頼を得られるようなコミュニケーションができればより業務がスムーズに進んでこといくことでしょう。
Powerpointをはじめとしたプレゼンテーション用ソフトウエアの利用に習熟することも伝える力の向上につながります。
伝えるための試行錯誤を今のうちに試しておくと、きっと上席の立場になる時には役に立ってくれます。
・公認会計士+???
以上色々と挙げてみましたが、いかがだったでしょうか。
さて、会計がお金を扱うものである以上、様々なお金を扱う場面、さらに言ってしまえば日常生活も含めた非常に多くの場面で会計的な考え方は応用が効きます。(例えば服を処分する際に、1年内に着る見込みがあるかという正常営業循環基準的な判断をする話を聞いたことがありました)
裏を返せば、会計士としての能力は上で挙げたもの以外にも様々なものとシナジーを発揮すると考えられます。それこそ得意分野と組み合わせることで、自分だけのプラスアルファというものも見つけられたりするでしょう。
最後になりましたが、皆様が皆様にとってのプラスアルファを見つけられることを願っております。