日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( 経営者・著名人 )

矢澤 利弘氏

2010年11月18日、公認会計士であり、映画評論家でもある矢澤利弘先生にインタビューを行いました。矢澤先生は3月1日と8日に開催される、日本公認会計士協会東京会主催の研修会「財務情報はどのように活用されているのかを考える研修会」(詳細はページの最後に記載)の講師をされる方であり、今回はそのご縁でインタビューする運びとなりました。研修会では語りつくせない、先生のキャリアや想い、そして研修会で準会員に伝えたいことなど、数多くのメッセージを頂きました。

矢澤利弘 公認会計士・税理士・日本証券アナリスト協会検定会員
元日本経済新聞社記者、元ブルームバーグ記者
映画専門大学大学院准教授

インタビューが2010年度公認会計士試験合格発表の直後ということもあり、試験に合格された方々へのメッセージもございます。ぜひ研修会へも出席いただけると幸いです。

矢澤先生の経歴について

矢澤先生は早稲田大学商学部をご卒業後、日本経済新聞社に入社され、その後会計士を目指されたということですが、そのきっかけや、その時感じていたことをお教え頂けますでしょうか?
学生時代は、商学部に所属していたので、簿記の2級くらいは取っておこうかなというくらいの気持ちでして、会計の世界で身を立てようという考えは持っていませんでした。どちらかというと学生時代は映画などに興味があって、映画会社とかメディアなど映像を作っていくような、例えばテレビ局などに関心がありました。その中でマスコミという、広く自分の思いを世の中に伝えていく仕事もしていきたいと思っていたところ、日本経済新聞社にご縁があり入社することになりました。
そこで経済事象の分析や、財務情報を分析する部署にいて、企業分析を担当していく中で財務分析の面白さに目覚めました。元々商学部は出ていたものの、会計がものすごく出来るわけではなかったのですが、仕事をし、勉強をしていく中で結構面白くなってきたんです。先輩の中に会計士受験者もいて話をしていくうちに興味が出てきて、また簿記の勉強を再開しようと思いました。そこでまずは簿記の1級を取ってから、会計士の勉強を始めたというのがきっかけになりますね。
1回目の受験の時は働きながらだったので記念受験になってしまいましたが、その後勉強に専念しなくてはと思い、退職しました。
元々は監査をしたい、というより新聞記者や企業の取材を行いながら会計士としての資格を持って仕事をしたい、という希望をもってました。ですが今に比べて合格者数は500名~600名の時代でしたし、3次試験を受けるためにも監査法人に入らなくてはならなかったので、一度退職して勉強に専念することにしました。
監査法人を退社したあとはブルームバーグに入社されたとのことですが、そのきっかけとそこでの経験をお聞かせ下さい。
監査も色々な会社を見れて新鮮で面白かったのですが、会計士としての知識と経験を使って、新聞記者や企業の取材の仕事をしていこうというのが元々の発想だったんですね。そこでたまたまブルームバーグという、経済情報を扱う会社が経済記者を募集しているという記事が新聞に出ていたのを見て、面白そうだったのでそこに転職しました。 

ブルームバーグでは基本的に経済記者をしました。色々な上場企業の社長のインタビュー等を行ったり、記者会見に出たりして、企業の取材をしながら経済記事を書いていくというのがメインの仕事になります。
当時はマザーズが開設した時代で、新しい企業が世の中に出てくる時代でした。そこで新興市場の社長のインタビューを行い、様々な世界に触れ、多くの企業を見たりすることが面白く、新鮮でしたね。その中にはいくつか潰れて行く会社や、不正を起こす会社もありました。

沢山の経営者のパーソナリティに肌で触れ場数を踏んでいるうちに、なんとなくこの社長怪しいなというような、ある程度の見分けもできるようになったんですね。この人間性を見れるのがインタビューの良いところでした。

会社の方に話を聞く際には、事前準備が非常に大切と感じています。矢澤先生は、会計士(監査人)としての事前準備と新聞記者としての事前準備はどのように違うとお考えでしょうか?
監査の時はある程度時間に余裕があり、聞きたいことが聞けなくても、また聞きに行くことができます。しかし、新聞記者時代のインタビューは相手がいて、かつ時間が限られていますので、話の筋を考えておき、滑らかに話をしてもらえるような準備をしなければいけません。
それ以外にも、有価証券報告書や目論見書を読み込むというのは私の中では基本でした。他の記者の方は必ずしも全員が読み込んでいるわけではなかったので、そういった準備をきちんとすることで信頼を得ていました。
具体的には、新規上場企業の社長さんの場合ですと、目論見書を読み込んでいき、会計士ですので当然、財務面の質問を織り交ぜます。それだけではなく、過去の新聞記事を読んだりして、財務面以外の質問の準備も怠らないように心がけていました。そのような準備の結果、インタビューをした社長から、「初めてこんな質問されたよ。」「逆に勉強になった。」といったようなことを言ってもらえました。
こういったことを言ってもらえることを目標に、事前準備には力を入れていましたね。
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3月1日(火)、8日(火)の研修会について 

次に研修会についてお伺いします。「財務情報はどのように活用されているのかを考える研修会」(詳細はページの最後に記載)ではどういったことをお伝えしようとお考えですか?
会計士が監査している財務情報は、実際にどのような使われ方をしているか?という事について伝えようと思っています。 

監査を行うにあたって、会計基準に則って作成されているかという視点は必ず持っているでしょうが、「なぜこの注記情報を開示するのか?」といった事について解っていないままで監査を行っている方が大半だと思います。
もちろん私自身も、監査を行っていた時は「なぜこの注記を行う必要があるのか?」といった事について分かっていませんでした。例えば、ヘッジ注記を例に挙げると「なぜ開示のチェックを行うのだろう。面倒くさいだけじゃないか。」と考えてしまうわけですよ。
ただ、実際に使う人がいるから初めてやる必要があるのです。私は監査側からの視点も使う側の視点も経験していますので、「開示されている数字の必要性について、会計基準に則っているからというだけではなく、このように使われるから必要なのだ」というように、両方の視点から分析の事例などを交えて話していけたらなと思います。
機械的に、無味乾燥に行ってしまっている部分もある監査業務ですが、分析者の視点に立って業務にあたることで「なぜその数字が重要なのか」という意識がもてるようになると思います。
具体的な研修会の内容はまだ固まっていないので、後は当日のお楽しみです。

先ほど研修会では財務情報の使われ方を伝えたいと仰っていましたが、それ以外に研修会ではどのようなことを伝えたいとお考えですか?
会社を批判的に見る、というのを会計士はよくやっていると思うんですね。継続企業の前提であったり、この会社潰れるんじゃないかとか。だから、財務情報を分析した結果を見て、ダメなんだったらこうすればいいんじゃないかといった建設的な意見、コンサルティングマインドがなかなか身に付かない。監査ではそういった助言は出来ないかもしれないけれども、ダメなんだったらこういう対処ができるんじゃないか、みたいなところまで踏み込めれば、財務情報の使われ方としては一番いい使われ方だと思うんですね。消極的に受け取るだけでなくて、数字を使ってどうするか、そこまで分析できるくらいまでの考え方を身につけてもらえたらなぁと思いますね。
先生の経歴を拝見しますと「日本証券アナリスト協会検定会員」という肩書がございます。そこで財務情報利用者としてのアナリストの視点についてお伺いしたいのですが、「会計監査」はどのような立ち位置なのですか?
アナリストというのは、「この財務情報が本当に正しいのか?」ということに疑いはもちません。最近、粉飾事例なども目立ちますが、アナリストも粉飾された誤った情報をもとに意見をだしてしまい痛い目にあっています。裏を返せばその場合監査はちゃんと行われていなかった、という事になります。
監査というのは、本来はいい意味で「空気」みたいな存在であるべきだと思います。なくてはならないけど、あっても気づかない。監査を受けているという事で、安心して情報が使用できるという事があるべき姿だと思います。

若手に向けたメッセージ

11月15日に公認会計士試験の合格発表があり、今年も2,000人弱の若手会計士が増えていますが、今後どういったキャリアを積んだり、経験をしたほうがよいのか、矢澤先生のお考えをお聞かせ下さい。
就職難の問題があるものの、私は金融庁の会計士試験の合格者を増やすという考え、つまり会計士が監査だけでなくて、色々な業界で活躍できる人を増やすという考えは、間違っていないと思うんです。監査法人に入らないと会計士登録がしにくいというのは問題だと思いますけど、公認会計士試験に受かったら監査業務に就かなければならないというわけではありません。経験を積んで色んな世界に会計とか監査の知識を持った若い人材が世に出て行くことは良い話だと思っています。ですので、色んな業界に進んでもらいたいと思います。 

最初のうちは日常の業務に忙殺される傾向が強いですが、将来何をやりたいかとか、目的意識を持ってやるほうが良いですね。

先ほど、若いうちから目的意識を持ったほうがいいという話がありましたが、先生は昔から映画が好きで、今も映画関係のお仕事もされています。やはり若いうちから将来は映画を仕事にしたいと考えていたのですか?
考えていましたね。今、映画関係の大学でも教えているんですけれど、そこで何を教えているかというと映画のシナリオとかを教えているわけではなく、映画に関する財務であったり、資金調達だったり、そういったことを教えています。映画と会計士って全然結び付かないように思えますが、例えば映画の製作委員会なんかにはアメリカだと会計士や弁護士が必ずいるんですね。日本はまだそこまで行っていないんですよ。個人的な想いとしては、映画業界なりコンテンツ業界に対して、もう少し財務的な視点であったり、法律的な視点をきっちりとして、日本のコンテンツの国際競争力を高める一助になりたいと思っています。
そういった業界に進出されている会計士は増えているのですか?
そんなに多くないですね。皆無ではないと思うんですけど、日本の映画業界はあまり収益性が高くないので、それだけでやっていくのは厳しいという事情もあるんですよ。あくまで、旧態依然の業界にいかに経営的なセンスを持ってもらうかというのが1つのテーマですね。
日本の映画業界には経営的センスは足りないのですか?
足りないですね。この業界には、金じゃなくて心だ、という人が多いんですけれど、そういうところに金融屋が入っていくと「金勘定はできるけれど、映画のことは何も分かってないじゃないか」って言われてしまって、相手にされない。逆に、金融とか会計とか、そういう財務的な人が入ってこないと旧態依然のままなんですよね。だから本来であればシナリオも読めて、映画もちゃんと知っていて、会計なり金融のこともわかる人間が携わるほうがいいと思います。今までの事例をみると、金融はわかるけど映画のことを知らない人が入って行ってうまくいかない事例というのは本当に多かったようです。両方わかる人材がもっと出てほしいと思いますね。
他の業界でもそうだと思うんです。スポーツでも、野球なんかはアメリカに行くとエージェントですとか、法律家がついていたりして、会計士もついていると思うんですよね。そういった旧態依然としているところほど、入り込む余地は非常に多いと考えています。そういうところで、会計士なり専門家がサポートしていけば、日本の国際競争力も高まると思いますね。
最後に、100人以上の経営者にインタビューされてきた中で、特に印象に残っている言葉で、若手会計士達に伝えたいというものがありましたら、教えて下さい。
言葉というより経験になってしまうんですけれど、「優れている人、成功している人ほど、腰が低い」ということですね。威張っている人というのは(初対面の)私に対してもそういう態度を取っているのだから、100人会っても同じ印象を持つと思うんです。逆に、腰が低い人というのは誰に会ってもそういう印象を持つと思うんです。そういう人は好かれますよね。好かれる人というのはやはり成功もしていきます。
会計士というと、「先生、先生」とクライアントから言われるでしょうけど、あまりそれで威張った態度を取っちゃったりすると嫌われるかもしれませんからね。
本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。 

今回インタビューをしました、矢澤利弘先生の講演会が2011年3月1日及び8日に開催されます。
普段あまり触れることのない、財務情報の利用者の視点を学べる貴重な機会ですので、奮ってご参加ください。

財務情報はどのように活用されているのかを考える研修会

■日時
3月1日(火)、8日(火)  18:15~ 20:45  (いずれも同一講義内容)
■場所
中央大学駿河台記念館2階281教室
■内容
講師:矢澤利弘氏(公認会計士 元日本経済新聞社記者、元ブルームバーグ記者)
日本公認会計士協会東京会主催の研修会です。実務補習所単位認定あり。

公認会計士が適正と判断した財務諸表を投資者(第三者)がどのように利用しているのか考えたことありますか?
利用者側からの目線で考えたことありますか? そんな疑問から企業情報の分析方法を学んでみよう。

■申し込み方法
東京会HP http://tokyo.jicpa.or.jp/にてお申し込みください。

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