日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( JIJAジャーナル・会計業界 )

高橋 敬一氏

1994年公認会計士2次試験合格。
その後クーパース会計事務所を経て、2000年ウルシステムズ株式会社に入社、現在、ウルシステムズCFO。

ベンチャー立ち上げ、JASDAQ上場(ウルシステムズCFO) 高橋 敬一氏 インタビュー

1994年公認会計士2次試験合格。その後クーパース会計事務所を経て、2000年ウルシステムズ株式会社に入社、現在に至る。

●2次試験に合格後、大手監査法人に入所

 2次試験に合格したのが94年の10月で、当時のクーパース会計事務所に入所しました。クーパースでは国際部で外資系企業の会計監査に3年従事し、その後、当時まだメジャーではなかったデューデリジェンスや企業評価といった新しい分野がやりたいと思い、トランザクションサービスに3年間従事しました。

●監査をしていた時に意識していたことは?

 先輩に連れられて、荷物を持って行っている頃はそれで精一杯なので、何も感じられませんでした。とにかく調書を作るのに必死でした。ただ、今になって監査のことを考えると、自分の目の前で通過していたものがすごく価値のあるものだったなと思います。フローチャート1つでも、その会社の歴史が詰まったものなのです。例えば会社の仕組みとして内部統制があるといえますが、1万人をモニタリングしてマネジメントする仕組みってすごいと思いませんか。その会社が真剣に考えて導入したシステムで間違いが起こらないように運用しているのです。

 それをみなさん当たり前のように見ているのですよ、「ああ、フローチャートね。」って。他の人では絶対入れないところに普通に入って、当たり前のように見せてもらっているので、感覚が麻痺してしまっているのです。

 何故それがあるかということを考えなくてはいけないと思いますし、それを考えるとすごく勉強になると思います。少しでもそう感じながら仕事をしてもらえれば、得るものは全然変わってくるのではないかと思います。

 あと、監査は、上手く自分の知見を高めていく意味ではすごく良い仕事だと思います。だらだら何も考えずやっているとつまらない業務かもしれません。監査に限らず他の業務でもそうですが、自分の中で「こうやっていきたい」という意識さえ持てば変わると思います。

●監査法人を辞め、ウルシステムズ株式会社の創設、経営に携わる

 29歳の時、クーパース時代の先輩の紹介で今のウルシステムズの社長と出会い、後先何も考えず一緒にやってみようと思いました。

 基本的に社長と什器・備品以外何もない会社で、私の肩書きはCFOですが、営業、人事、なんでもやって、ゼロから会社を作りました。ただ、監査法人時代の知識は非常に役に立ちました。例えば会社のステージによって不必要な部分と必要な部分が何なのかは監査に従事していれば良く分かっているじゃないですか。

 二次試験に合格した時から、会社の中に入って自分が当事者になってみたいと思っていました。会計士としてだけではなく、実際にそこに携わって全ての原因をつくり、全ての結果を受け入れる人になりたいなと。ドラスティックに変わるのは会社自身だし、会社の中にいないとそれは味わえないと思います。会計士が独立の第三者としてアドバイスができる強みはすごく魅力的なのですが、どんなに良いアドバイスしても、やるのは本人です。今は経営者側の立場なのでそれは強く感じます。

 また、資本主義社会で一番の主役は株式会社ですから、株式会社の中で何ができるかがすごく重要だと思っていました。監査法人を飛び出して、いきなり経営者としてやるには難しいと思ったので、とにかく経営陣の一員として参画して会社を大きくしたい、できれば公開まで持っていきたいと思っていました。

 何故この会社が良かったかというと、「ピンときた」ということです。私は技術がある会社が良いと思っていましたし、この会社なら面白いかなと思ってこの会社でやっていくことにしました。

●転職する際は悩みましたか?

 全然悩みませんでした。そこは若さがあったのだと思います。当時、結婚もしていたのですが、「転職を決めたよ。」って妻に伝えたら、もう諦めていました。もし今同じことを考えたら、躊躇すると思います。その時だから決断できたのだと思います。自分は成功するものだと思いこんでいたというのもあります。「じゃあ、何で?」と言われたら、何の根拠もありません。(笑)

 あと、チャレンジはすごく重要だと思います。他人がやっていることに口を出すのは簡単なことです。でも何もしないところからは、何も生まれません。何か生もうとするなら自らチャレンジしていくことが必要なのです。

●監査法人時代と違いを感じること

 監査法人の場合、会社の外から客観的に捉えてズバッと言えますが、一方、会社の中では、身内だという認識を持っているので、相手のことをよく考えて、その後の結果まで見据えて話をする必要があります。家族の外から誰かがアドバイスすることと、家族の中で話し合うことが全然違うのと一緒です。同じ釜の飯を食っている訳なので、その人のモチベーションをいかに上げるかを考えて話をするようになりました。

●会計士の強みを感じることは?

 会計は資本主義の国であれば、すべての経済活動のベースになるものですから、そのベースになるものを知っていることは、すごく強みだと思います。一上場会社の経営陣としてすごく感じます。決算書はいわば経営者の成績表ですが、その成績表のつけ方を会計士は知っているんですよ。一般の人が知らないような、どう動けばどうなるというのを知っている点に強みがあると思います。だから、そういう意味で、会計士で良かったなと思います。人を動かす上でそういったツールはすごく重要な事だと思いますし。

●これからの会計士に必要なものは?

 会計士としての業務をやっていく上では、やはり専門性がすごく重要だと思います。会計のスペシャリストとして会計士が存在していますが、その会計士の世界の中でもさまざまな分野があります。例えば金融で、デリバティブなら詳しいとか。一通り学ぶにしても、何かしら専門家としてどこかに特化することは求められると思うし、顧客の立場からもそれは求めたいと思います。

 もちろん、広く浅くも重要だと思います。広く浅くといっても、求めるレベルは結構深いかもしれませんが。あの人は会計士として一通りできて素養はあって、その上でデリバティブがより詳しいといったように。

 私の合格した当時と今とではこの業界の広さや深さが明らかに違います。監査六法の大きさを例にとっても紙が薄くなっているのに、当時よりもずっと厚くなっています。さらに国際会計基準の話もでてきています。その中でさらに一つ定めていくのがとても重要だと思います。

 あとは、会社のマネジメントに参画しないまでも、マネジメントの視点を理解することが重要だと思います。最終顧客はもちろん株主ですけど、その前に会社の人と話をしなくてはいけない。その中で会社の人と話せるような知識の深さは求めていかなくてはいけないと思います。

 まずは、とにかく経営者と話をすることです。その積み重ねにより経営者の視点を知ることができ、マネジメントの素養が磨かれていくのではないかと思います。

●優秀な会計士とは?

 牽制的機能ばかりによらず、指導的機能を十分発揮する方だと思います。そのためには、専門家としての知識を持っていて、かつ経営者の視点を持っている会計士になる必要があり、これができる方は素晴らしいと思います。皆さんの先輩にも結構いらっしゃると思います。そういう方を目標にされるのが良いと思います。昔も今もそうですけど、私も尊敬できる人の真似から始めています。

●準会員へのメッセージ

 今、会計士業界は就職難ですよね。私の時代も実は同じように就職難でした。私はたまたま運良く当時の事務所に入所できたのですが、就職できない友人もたくさんいました。だからよく分かるのですが、そういう未就職の方に対しては、本当に腐らないでほしいと思います。頑張っていれば必ず良いことがあると思います。せっかく会計士を志したのですし、自分のその先には、監査したり、私みたいに一般事業会社に入ったり、自分でコンサルティング会社を作ったり、投資銀行に入ったり、いろんなことで活躍している人がいて、ものすごく先は広いんですよね。だから、今は悪いかもしれないけれども、必ず拓かれる道はあると思うので、今のうちは天から勉強しろと言われているのだと思って、頑張ってほしいと思います。

 監査に従事している準会員の方に対しては、自分が置かれていることが世の中からみて、どれだけ恵まれているのかを理解して励んでほしいと思います。一般社会から期待されているものは倫理的にも技術的にも、すごく高いものがあります。会計士がいないと資本主義社会は絶対成り立たちません。そういった要の部分を担っているのだという誇りを持って頑張ってほしいと思います。

(文責:藤井 雄介)

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